バーチャルとリアルをつなぐ、ものづくりの未来。「第十二回 SCSK Designers Forum」イベントレポート(後半)

2015年11月25日(水)に東京・秋葉原UDX GALLERYで開催された「第十二回SCSK Designers Forum」のイベントレポート後半です。前半に続き、後半では4つの講演をご紹介します。

3D化への課題とものづくりの現状

講演後半の最初には、SCSK株式会社の谷澤真氏より、ドイツで開催された「Impress3D」のレポートが行われました。 「Impress3D」とは、3Dデジタルデザインにかかわる多くの人が集まり、最新技術や事例が紹介されるイベントです。

近年、開発環境では国内外問わず3D化が進んでいます。しかし、マーケティング分野では3D化への対応がまだ進んでおらず、開発部門とマーケティング部門との大きな溝ができているのが現状です。3D ビジュアライゼーションとバーチャルプロトタイプ作成ツールである「VRED」を、マーケティング分野でも大いに活用していくことが大切であると報告されました。

また、オートデスク株式会社のジョン・ウォンジン氏より、ものづくりの未来「Future of Making Things」と題して、3Dプリンタや設計手法など、ものづくりの形が大きく変わっている現状についての講演が行われまし

潜在意識に訴えるデザイン。メタファーと計算された形状


続いて、澄川伸一デザイン事務所代表の澄川氏による講演。「潜在意識に訴えるデザインとは?」と題し、デザインにおけるメタファー、暗喩の効果についての講演が行われました。

澄川氏は、ソニー株式会社でオーディオ機器などのデザインに携わり、ウォークマンやヘッドフォンをはじめとする多くの製品のデザインを担当。ソニー退社後にデザイン事務所を設立し、医療機器や学習教具、通信機器など幅広い分野のデザインで活躍されています。

澄川氏は「メタファー、暗喩による裏に隠された例え。こういうものの効果はすごく大きい。ここ2、3年このことを強く実感している」と言います。具体例として、リオデジャネイロ五輪の公式卓球台の脚部に見られる曲線のメタファーについて解説。公式卓球台の脚部には、さまざまな曲線のなかから放物線が使われています。放物線は指向性が強く非常に美しいカーブであって、球を打ち合う卓球はまさにこの放物線の戦い。メタファーとして脚部に放物線を使うことで卓球の躍動感を表し、ストーリーを持たせているのです。


澄川氏デザインのリオデジャネイロ五輪の公式卓球台。

ほかにも、フォークやスプーンなどのカトラリーに対し、ミロのヴィーナスをモチーフとした曲線をメタファーとして用いる例も紹介。これにより、食事の時間に艶のある輝きを持たせ、食事を楽しくする効果があることを解説しました。


ミロのヴィーナスがモチーフのカトラリー「Venus Line」。

機能面も追及した計算されたデザイン

澄川氏のデザインは、メタファーだけに限らず、積み重ねられた理論によって完成された形状も備えています。例えば、日本酒用にデザインされたグラス。日本酒はグラスを口に近づけた際に立ち上がる香りや、飲んだときの口の中での着地点などで味が大きく変わります。その最適条件を探るためには、グラスの厚みや形状などを何度も変えて試作し、実際に飲んで確認しています。こうしてできあがったグラスは、結果として実験に基づいた美しいカーブを描いているのです。


細かい計算の積み重ねでデザインされた日本酒グラス。


3Dプリンタにより制作されたグラスの試作品。

メタファーと機能性を追求したデザインでは、デザインしたものの初期試作に3Dプリンタを用いています。そうすることで、フォルム検討にかかる時間を短くし、設計段階での円滑なコミュニケーションを行うことができるようになり、仕事の速度を速めていると澄川氏は述べています。

お客様の夢を形にする。「みせる」デザイン


最後は、株式会社本田技術研究所の三輪幸治氏によるThe Power of Dreams 『 お客様の 夢 を かたち にする 』と題した同社の二輪開発における「みせる」デザインについての講演です。講演者の三輪氏は、二輪R&Dセンターのデザイン開発室クリエティブディレクター兼室長を務め、今までスクーターや大型モーターサイクルなどのデザインに携わっています。

三輪氏は、二輪のデザインにおける「みせる」には、「見せる」「魅せる」「診せる」など、さまざまな「みせる」があると言います。

まずは「見せる」について。バイクに乗るからには、どうせならば格好よく見られたいとお客様は思います。そのため、デザインでは常に、人が乗って格好よく見えるデザインを目指し、バイクのサイズやライディングポジションなどスケッチの段階から人の乗った状態で考えるそうです。


二輪デザインにおける様々な「みせる」。


新モデル「アフリカツイン」の展示。様々な「みせる」がこの中に。

夢を形に。ボルト1本まで追求する美しく機能的なデザイン

次に「魅せる」。バイク乗りはメカ好きが多く、特に高価格帯のバイクはメカ部分が美しくなければ購入してもらえません。マフラーやフレームなど機能にかかわる部品は、ボルト1個にしてもデザインを検討し、エンジンの意匠も追及していきます。


ホイールやエンジンなど全ての部品に魅せるデザインが施される。

そして最後に「診せる」。これは自らの目で診断していくことです。仕様やターゲット顧客の調査、直接お客様から聞いた要望などを盛り込み、できたデザインを形にして確認していきます。スケッチ、クレイモデルから始まり、最終的にはVREDを活用し、バーチャルで細かいところまでじっくり確認していきます。

同社では、本当にお客様の欲しいものを作るため、研究所と会社は別会社として切り離されています。売れればいい、もうければいいでなく、この「みせる」デザインを追求することで、お客様の夢を形にすることを実現させているのです。

 

今回で12回目となったSCSK Designers Forum。義手の開発に始まり、3D化への課題、ものづくりの現状、そして、五輪の公式卓球台、バイクまで、さまざまな分野で、各講演者がコンセプトとしていて持っていたバーチャルが3Dを通してリアルになる様が紹介されました。次回はどんなデザインの最新情勢が発表されるのか、今後のSCSK Designers Forumにも注目です。

 

参考: